知っておきたい眼疾患
その他の眼疾患
巨大乳頭状結膜炎、睫毛乱生&内反、結膜下出血、鼻涙管閉塞&慢性涙嚢炎、周期性角膜びらん、角膜帯状変性、調節痙攣、老視、黄斑円孔、黄斑前膜、色覚異常
① 白内障
"かすみ目"で最もポピュラーなのは白内障ですね。白内障とは、カメラのレンズに当る水晶体(下図矢印)が混濁している状態です。多くは加齢によるものですが、糖尿病や先天性、外傷性のものがあります。手術が唯一の治療法で、治す薬は現在のところありません。白内障の手術はほとんど場合、安全で短時間にできます。勿論、生の眼を手術するわけですから合併症を生じることはあります。
白内障手術について
矢印が水晶体
白内障手術は日帰りで出来る位、今や安全な手術にはなりました。しかし軽く考えてはいけません。(繰り返しますが)生の眼を切るわけですからリスクはあります。白内障手術に関して、一般的に行われている術前検査、手術手技などをお知らせします。簡潔に言いますと、白内障手術は濁った水晶体を取り除いて、代わりに人工レンズ(眼内レンズ)を挿入します。
1.術前検査
①眼軸長計測:眼軸長とは眼球の前後の長さ(前後径)です。この眼軸長によって挿入する眼内レンズの度が変わります。強い度のレンズを入れると近視になり、弱い度を入れると遠視になります。
②角膜曲率半径計測:角膜(黒目)のカーブ(丸み)です。①と同様、挿入する眼内レンズの度を決定するのに必要です。まず目的とする度数(どの位の近視や遠視にするか)は、ほぼこの①、②の値で決まります。
③角膜内皮細胞数:角膜(黒目)の細胞数ですが、減っていると手術することに危険があります。十分足りているか術前に確かめておきます。
2.手術手技
抗菌薬点眼 ※手術3日前から点眼します
眼周囲の細菌を減らして手術日に来院します。
麻酔:テノン嚢麻酔、又は点眼麻酔
テノン嚢麻酔の方が麻酔効果は確実です。術中予期せぬことがあったり手術時間が長くなっても心配ありません。
手術の手順
強膜切開または角膜切開。
→前嚢円形切除→超音波による水晶体の破砕吸引→皮質吸引と後嚢研磨→眼内レンズ挿入。結膜整復で手術終了です。
3.術後
以下は一般的な場合で各医療機関によって異なります。極端な安静は不要です。家事や散歩、テレビ視聴等は構いません。しかし勿論、眼をぶつけたり、ばい菌が入る様な事は厳禁です。術後当日より、抗菌薬内服を3日間します。術翌日から、抗菌薬や消炎薬の点眼を始めます。1週間経過をみて問題なければ、2週間後、1か月後等、診察の間隔を開けていきます。術後1か月経つと、その後は1か月毎の診察となります。眼の度が落ちつくのに術後1か月程度はかかりますので、特に不便がなければ眼鏡処方は術後1か月程度待った方がいいでしょう。ただし、強度近視や遠視で見づらい時は仮の眼鏡を作っても良いでしょう。
② 緑内障
緑内障は現在、本邦の失明原因の第1位です。一切痛みや霞みが無いので「40才を過ぎたら緑内障の健診を」と言われる所以で、偶然見つかるケースも多いです。
眼球には触れて分る様にある一定の硬さ(というか軟らかさ)があります。それを眼圧(眼内圧)と言います。この眼圧の上昇によって視神経が障害され、視野の一部に影(暗点や狭窄、欠損など)が生じる眼病が緑内障です。正常眼圧は10~20mmHg、平均15 mmHg位です。治療は、眼圧を低下させる点眼薬です。残念ですが緑内障は治る病気ではなく悪化しない様、一生抑えていく病気です。視神経は障害されると元には戻りません。厄介なのは、眼圧が正常範囲でも視野狭窄を来たし悪化することがあることで(正常眼圧緑内障と言います)、日本人に特に多いです。これは眼圧だけが原因ではなくて、視神経の血液循環も悪いせいでないか等議論されています。
正常な視野(右眼)中心より約15度耳側に暗点(盲点)があります。
視神経線維の走行は上部は上部、下部は下部に分かれていて、上下の視神経線維が交わることはありません。OD:視神経乳頭 N:鼻側 T:耳側(左眼)
視野の中央部が障害された緑内障(左眼)
視野の上方が狭窄した緑内障(右眼)
③ 糖尿病網膜症
糖尿病は全身の、特に網膜や腎臓の毛細血管を障害します。眼底の網膜には、まず赤い点が発生します。これは毛細血管瘤と言って、毛細血管の一部が小さなコブ状になるため赤い点に見えます(出血ではありません)。次いで点状出血やしみ状出血が生じます。毛細血管閉塞による綿花状白斑も出現します(図)。増悪す ると、毛細血管の閉塞した無血管領域や破綻しやすい新生血管網が発生します。この前増殖網膜症の時期が網膜光凝固の適応です。今やこの網膜光凝固により、糖尿病網膜症で失明する患者さんが激減しました。
糖尿病による黄斑浮腫
④ 加齢黄斑変性
黄斑部とは、眼底の網膜の中心部で視力を司っている所です。ルテインという黄色色素を含んでいるため黄色味を帯びており、黄斑部と呼ばれます。黄斑変性はここが障害されるもので、浮腫や出血、悪い新生血管が生じたりします。喫煙が最も悪影響があると言われており、歪視(物が歪んで見える)や視力低下などを来たします。治療は、主に抗VEGF薬(*VEGF:血管内皮増殖因子)の硝子体内注射です。黄斑部の中心はやや茶褐色で中心窩と言われます(下図、左眼)。
矢印が黄斑部の中心、中心窩と言われる所です(左眼)
中央の窪んでいる所が黄斑部の中心の中心窩です
中心の窪んでいる所が黄斑部です
⑤ 屈折異常(近視、遠視、乱視)
眼は外界の像が網膜(黄斑部)に結像することによって“見る”ことが出来ます。しかし、結像する焦点が黄斑部より手前なら近視、黄斑部より後ろなら遠視になります。ですから、近視を矯正して黄斑部に焦点を結像させるのには凹レンズ、遠視では逆に凸レンズです。乱視とは結像する焦点が一つでない状態です。矯正方法(治療)で一番簡便なのは眼鏡ですが、他にご承知の様にコンタクトレンズ(ハード、ソフト)やレーシック(レーザー手術)があります。それぞれ一長一短あります。
⑥ ドライアイ
角膜(黒目)や結膜(白目)は常に安定した涙液層で被われています。この涙液層、もっと細かく言いますと最表層が油層、次いで水層、角膜に接しているのが粘液(ムチン)層です。涙液量が減ったり、あるいは涙の蒸発が増加して3層構造のバランスが崩れた状態がドライアイと言えます。目がショボショボしたり、異物感などの様々な症状を呈します。治療は点眼薬やプラグ挿入です。点眼薬は現在ヒアレイン、ジクアス、ムコスタなどがあり以前より選択肢が増えました。
その他の眼疾患
巨大乳頭状結膜炎
瞼の裏の結膜(眼瞼結膜、主に上瞼)にぶつぶつしたもの(乳頭と言います)ができます。コンタクトレンズによることが多いです。治りにくく、まずコンタクトレンズを中止することが第一です。場合によっては角膜がこすれて傷がつくことも少なくありません。
睫毛内反・乱生・眼瞼内反
俗にいう"さかまつげ"です。異物感、ゴロゴロするなどの症状があります。抜去すれば一時的に楽になりますが、また生えて来ます。手術が一番有効ですが、加齢による眼瞼内反は再発することが少なくありません。
結膜(下)出血
これは突然白目(球結膜)が出血により真っ赤になるもので、驚いて受診される方が多いです。原因は腹圧上昇や怒責ですが不明の事も多いです。心配はなく予後良好で徐々に消褪します(7~10日位)。
鼻涙管閉塞&慢性涙嚢炎
泣くと涙が鼻に落ちて来ますが、これは言うまでもなく目と鼻がつながっているからです。この道を涙道(又は鼻涙管)と言います。これが詰まるのが鼻涙管閉塞です。しかし、詰まる場所により(眼側から言いますと)涙点閉塞、涙小管閉塞、鼻涙管閉塞となります。閉塞する原因は不明ですが、若い人には少なく、殆どが年配者ですので加齢が大いに関連しているでしょう。閉塞したままにしておくと、細菌が繁殖し膿が溜まってしまう事があります。それが慢性涙嚢炎です。当院では涙管にチューブを挿入して治療します(涙管チューブ挿入術)。
周期性角膜びらん
角膜が外傷により剥けたりすると、その傷害部は再生しても接着不良となり、びらんの発生を繰り返すことがあります。黒目は傷つけないようにしましょう。 治療は点眼薬の他、軟膏、コンタクトレンズ、乱刺法です。
角膜帯状変性
角膜にカルシウムが沈着して灰白色の帯状混濁を示す疾患です。見づらくなったら、レーザーやEDTAや希塩酸でかなり除去することが出来ます。写真は当院でのEDTAによる除去術。左は術前、右は術後。患者さんも見える様になったと喜んでいます。
調節痙攣
いわゆる仮性近視と言われるものです。治療は調節麻痺薬点眼です。しかし経験上、一時的に視力回復しても長期的にみると結局は近視になってしまうことが 多い様です。
老視
加齢によって水晶体が硬くなり、近くの文字等にピントが合いづらくなり見づらくなった状態です。近用眼鏡を使用せずにいると頭痛や眼精疲労を生じます。無理をせず、近用眼鏡を使用して楽に見る様に致しましょう。
黄斑円孔
黄斑部に穴が開き、ひどく見づらくなります。現在は手術(硝子体手術)によって(元通りとまでは言いませんが)改善することが多いです。
黄斑前膜
黄斑部の網膜上に膜が出来ることがあり、ひどくなると歪み(歪視)などが生じます。手術によってこの膜は除去出来ますが、この前膜下の網膜の肥厚が術後も続いて、あまり自覚症状が改善しないことも少なくありません。
色覚異常
殆どが先天性赤緑色覚異常で、男子では15人から20人に一人います。女子は稀です。これは劣性伴性遺伝が多いためです。多いのは色覚異常の祖父の遺伝子が娘に伝わり、娘はただの保因者で表には表れず、生んだ男子に表れるパターンです。